プロレス天皇VSザ・サング
(1983)

・・・・南海に浮かぶ孤島、マツール島・・・邪悪な死者の魂を甦らせる神秘の魔術が伝わるこの島は「死神の島」として世界中から恐れられていた。そこへあらわれた怪覆面の男。男は恐れることも無く島へ上陸すると、魔術師の待つ館へと向かった。

その男こそ我らがプロレス天皇のにっくきライバル、怪奇プロレス興業社長、ザ・怪奇であった。彼の企みは何か!?

 決して死なない不死の体をもった恐怖のTリビング・デッドUレスラー、「ザ・サング」に天皇の必殺技はことごとくハネ返され絶体絶命の危機に!果たして、我らがプロレス天皇の運命やいかに!?

即興で作られ、予想外の成功をおさめた「プロレス天皇」に対し、続編の「サング」は、十分な準備期間を置き、映画作りの正当な作法と段取りで作られている。また、本格的なシナリオもこの作品から登場し、ドタバタ中心の特撮アクションが主流だったアラマントが初めてドラマツルギーの部分にも踏み込んだ画期的な作品であった。

 そして「サング」では特殊メイクも初めて試みられた。当初は小麦粉やオブラートを使っていたが、次の「プラウラー」ではライフ・マスク型取りによるラテックス製のパーツを使用、作を重ねる毎にレベルアップし、「地獄の使者」でその頂点に達する。

だが、やはり白眉はアクションだろう。絵コンテにより綿密にカット割りされ撮影された本編のアクション・シーンは前作のそれを上回る出来で、アラマント全作品の中でもベストのものだ。

「プロレス天皇vsザ・サング」はアラマント作品の方向性を決定したエポック・メーキングな一作であるばかりでなく、のちに永井豪氏をはじめ一流の評論家や映像作家に絶賛される事になるアラマント氏のセンスが縦横に開花した、アラマント初期の最高傑作である。


アマチュア映像の地獄・極北の餓鬼リアリズム
〜「プロレス天皇対ザ・サング」〜

呪井 博士


自分はどういうわけか、ある時期から映像に関して極端な暴力や反社会的なもの、いわゆるハードコア系が一切ダメになり、避けるようになっていた。そういう映像に触れると非常に落ち込み、しかもなかなかダメージは癒されず苦労する羽目になるからだ。その類の物は見てしまってからでは遅いので自然、やばいものを察知する感覚は知らず知らずのうちに研ぎ澄まされていったと思う。一昨年だったか、知人の紹介でアラマント社を知り、浦安の方で開かれたアラマントの上映会に初めて行ったが、この「プロレス天皇対ザ・サング」は、じっさい、凄まじくヤバい代物だった。そしてあれを見た事は一生癒えぬ心の傷となり、今も毎晩悪夢にうなされ続けている。

「サング」は、アラマント初期8ミリシネ作品「プロレス天皇」シリーズの二作目として1983年に製作された。この当時のアラマント社の8ミリは、なんとセロテープでフィルムを編集してありまともに見れない部分が多々あったりする。上映時に同時再生されたというBGMも古く、長州力以外はもう全部使われていない昔のレスラーのテーマという大変なものだ。 

    

そして「サング」は、アラマント氏を知る者なら必ず1回は見ている(というか見せられる)有名な作品だそうで、プロレス天皇の敵である怪人「サング」は映画の中では甦った死者、一種のゾンビとして登場してくるのだが(サングの名はTサンゲリアUと言うゾンビ系映画から取られた。)そのモンスターのメイクが問題なのである。

「サング」の崩れ切った顔の表現にメチャメチャに力が入っているのだ。

普通ーの民家の、鏡台やらタンスやらの置かれたごく普通の和室で撮られ、出演者は全員子供という実に適当な映画のくせに、モンスターの顔だけがやたらグロいのだ。崩れているというより溶解していると言ったほうがいいかもしれない。どうやって作るのかはしらないが、下手な商業映画に登場するその手の物よりよりはるかにリアルで気味の悪い代物には違いない。

そしてさらにフィルムがスタートして1分もたたないうちにレスラー役の子供がいきなり手刀で腹を突き破られ血と内臓をぶちまけるという、とんでも無いシーンがスクリーン上にたたきつけられ仰天させられる。

これが作られた当時はスプラッター映画や「北斗の拳」の人気が出始めた頃だと思われるのでこういう不必要な残酷シーンもアリなんだろう。手刀で腹を突き破るというのも無茶苦茶だが、安易で、いかにも子供が思い付きそうな事だ。

それにしても出演者のガキどもは全く手加減を知らないらしい。ふとんがあるからバックドロップはまだいいとして(しかし受け身をしてないので完全に首がイッている)、殴る、蹴る、それに全体重をかけたニードロップの直撃はひどい。やられた子供はプロレスのマットにみたてているらしい、敷き詰められたふとんの上をマジで転げ回って悶絶している。どのくらいやれば大怪我するとか死んでしまうとか、初めから念頭にないようだし、痛さに対する想像力すら欠如しているようだ。こうなるともう演技どころかプロレスごっこにもなっていない。制御不能、まさに阿鼻叫喚の無法状態。とにかくあまりにもひどすぎる。

 しかし、どうもおかしい。このひどい映画の中で「サング」だけが突出しすぎているのだ。アラマント氏には失礼だが、彼が少年時代に撮ったというこの映画、はっきり言って作品の完成度を云々言える代物ではない。もっとも、子供の撮った8ミリ映画で完成度がどうこう言うのは酷かもしれないが、他人に見せる事を前提として作られていないのか唐突だし、あまりにも思いつきだけで作られすぎている。先の手刀で腹を突き破る場面にしても、実際に撮れた画はピンボケのうえ、余りに大量の血が一度に降って来たため、画面は一瞬で真っ赤に染まって何も見えなくなってしまっていた。このあたりの誤解や不明が決定的に稚拙なのだ。要するに作品全体としてはまだ素人による映画ゴッコの域を出ていない。なのに「サング」のメークだけが異常によく出来すぎている。

 いや、実はそれを抜きにしてもどうも最前から妙な胸騒ぎがしていた。おかしい。この映画全体から何か得体の知れない不気味な物を感じる。他の客は誰一人、気付いていない様だったが自分には分かる。この8ミリは・・・危険じゃないのか。

その時、いきなり「サング」の素顔が画面上でアップになった。

彼の顔は溶解していたんじゃない。確かにそう見えるが、それは火傷で皮膚がベロベロにただれ、火ぶくれで崩れた顔全体が溶けた様に見えただけだった。クチビルも茹でたトマトみたいにズル剥けている。そしてその下にはピンク色の肉まで露出しているのだ。

ここまで作り込む必要があるか?それ以前に子供にこんな精巧な特殊メークができるだろうか?・・・・いや、そもそもこんな火傷のメークはおかしいのだ。なぜなら「サング」はゾンビのレスラーのはずだ。ゾンビならゾンビっぽい死体のメークでいい。これだけの特殊メークの技術があれば、もっと気色の悪い腐乱死体の顔が作れるはずだ。ウジとか沸かせたりして・・・「サンゲリア」もそんな映画だった気がする。なのになぜ、わざわざ火傷のメークにする必要があったのか?ゾンビに火傷?!

・・・本物だ!!もはやそれ以外に考えられなかった。こいつら、手っ取り早く、取りあえずキモチ悪いカオが欲しいってんでクラスのいじめられっ子か誰かの顔をバーナーで焼いたんじゃないか?これはどう見ても本物だ。あるいはもともとこういう顔をした子がいるのかもしれん。事故か何か?それで怪物映画を思いついて・・・・こんな、セロテープでフィルムを編集してるような素人の子供に・・・プロレスごっこで、どのくらい加減しないと相手を殺しかねないかも分からないようなバカ餓鬼どもに、こんな精巧な物を作る能力があるはず無いのだ。本物だ。だから火傷なんだ。・・・とするとあの腹を裂かれた子供は?いいや、いくらなんでもあれは違うはずだ。それはありえない。あってはならないことだからだ。だから等身大の精巧なダミーのボディーを作って・・・

スクリーンの中ではいつしかBGMがアラマント映画のスタンダードTゴブリンUに変わり、歯止めを失ったガキとケロイドのモンスターは狂乱のバイオレンスを延々と続けていた。

そしてサング役のケロイド少年は目玉をえぐられた上、片腕まで切断されあろうことかピンフォール負けしてしまったのだ。冗談じゃない。眼窩からドス黒い血がビュービュー飛び出していて、腕の切断面には骨までのぞいてるって言うのに、ワンツースリーで勝ったは無いだろう。

これは全て作り物で無ければならない。しかし必死で粗を見つけようと目をこらせばするほどに恐るべき事実を確信してしまうのだ。本物を使い、本当にやるしかガキには撮れない映像。しかもこの餓鬼映画は、観客に対しこれはごまかしなしですよと言わんばかりの接写やトリックのきかないアングルで傷口や落とされた腕(まだピクピク動いている)を得意げに映し出すのだ。

時々、ブレたりピントがぼやけたりはするのだが・・・・

そう、これはプライベート・フィルム、何が写っていても不思議はない。ましてやここに写っている非常識なガキの世界に「あってはならない」ものなんて無い。なんでもアリだ。

10分弱の「プロレス天皇対ザ・サング」は終わり、続けてシリーズ3作目「プロレス天皇対ザ・プラウラー」のオープニング・タイトルが始まっていたが、自分は席を立った。

他の客は相変わらず微塵も疑うことなく画面の中の惨劇を、ゲラゲラ笑いながら観続けている。スクリーンを背に暗闇の方向へ歩き出した時だ。

「ほっぺたを水で濡らした上にオブラートを貼るとああなりますよ。」

振り向くと眼鏡をかけた紳士がスクリーンを見つめたまま、こちらを振り返りもせず話し続けていた。

「・・ピンピンに突っ張って本物のケロイドみたくなるんです。特殊メーク用のフォーム・ラバーとか、そんなの当時見たことも聞いた事もなかったですね。」

その瞬間、全身が凍りついた。この8ミリ映画の監督、アラマント氏だ!!・・・この男は、少なくとも2人を殺し、そして何人かの子供を確実に不具にしている・・・

「・・・ま、初めての方は大抵驚かれます。中には危険な匂いを感じとる方もいらっしゃるようです。映画全体に溢れる無秩序さに恐れをなすのです。でも実に他愛のない事ですよ。映画に詳しい人が聞いたら仰天するような方法で作ってましたね。ガキですから。カメラにしろ、照明にしろ編集にしてもね。基本なんて無いわけですから。無知ゆえの意外性、ガキゆえの奔放な発想と工夫のたまものですね。それにたまたま8ミリの解像度の悪さも手伝ってここまでの物に仕上がった。何度も見ていたいただければきっとこのムードがくせになるはずですよ。偶然の産物と言われればそれまででしょうが、これぞ餓鬼(ガキ)リアリズムと呼ばずしてなんと呼びましょうか・・・」

偶然?そんな馬鹿な、何を今さら、そう思った時だった。アラマント氏はおもむろに振り向き、ニッコリ微笑むと・・・・お約束のセリフを吐いたのだった。

    「なんで本当にやってるって分かった?」

(のろい ひろし・アメリカ文学・無職)